月の番人
¥1,980 (税込)
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Owner's Essay 店主の読書エッセイ
夜、ベランダに出て月を見ることがある。
特別な理由はない。ただ、なんとなく。
『月の番人』を読んでからというもの、その月の裏側に、ひとりの男がいる気がしてならない。レバーを引き、ダイヤルを回し、「今日は満月にしておこう」と決めている誰か。
月の満ち欠けが、自然現象ではなく業務になっている。その発想の転換だけで、世界はずいぶん可笑しくなる。壮大な宇宙が、急に事務的になる。
「流星群、手配済み」
そんな付箋が貼られていそうな月面のコントロールルーム。
けれど、笑ってしまうのは最初だけだ。読み進めるうちに、その仕事の静けさが胸に残る。番人は、褒められない。感謝もされない。失敗しなければ存在にすら気づかれない。それでも、毎日きちんと月を動かす。
それはどこか、私たちの生活に似ている。
誰かのサイトがちゃんと表示されること。
電気がつくこと。
水が出ること。
当たり前の裏側には、必ず「番人」がいる。
この物語の好きなところは、孤独を大げさに描かないところだ。
寂しさをことさらに強調しない。
かわいそうにも、英雄にも、しない。